ワタシはなんでも泳いで治すので、今回もいつもどおりプールへ。
プールのあとは、お風呂。
ここのスポーツクラブは、シャワーブースと銭湯のような浴場がある。
銭湯浴場のほうで風呂椅子に座り、目の前の鏡に映っている浴場内の様子を見るともなく見ながら身体を洗っていたときのこと。
鏡越しに、太ったおばあさんがこちらに歩いてくるのが見えていたのだが、突然、そのおばあさんが足を滑らせて真後ろに引っくり返り、後頭部からばったりと仰向けに倒れてしまった。
ほんの一瞬、今見た光景の意味が理解できずに
「えーっと・・・」
という感じだったが、1秒後には反射的に立ち上がり、倒れているおばあさんのほうへ。
ワタシが2~3歩進んだころには他の人たちも気がついて、おばあさんのところに集まりはじめたので、ワタシはいったんシャワーへ戻る。
身体を洗っている最中に立ち上がったので、ワタシの身体は泡だらけ。
ワタシが落とした泡で、滑って転ぶ人がまたいたら、いかんと思ったからだった。
気になって身体を流しながら鏡ごしに見ていたら、おばあさんはちょっとの間動かなかったようだったが、そのうち自分で立ち上がり、駆けつけて来たスポーツクラブのスタッフに支えられながら浴場から出て行った。
ワタシがシャワーからあがると、おばあさんは更衣室のベンチに寝かされていて、その周りでスポーツクラブの人も含め大勢でワイワイやっている。
身体を拭きながら聞いていると、
「転んだみたいです~。」
「どうしましょう~?」
「大丈夫ですか~?」
と、なんだかのんびりムード。
ぎゃ。
おばあさんは真後ろにひっくり返って後頭部を床に打ち付けているので、のんびり寝かせているバヤイではないと思うぞ。
しかし目撃したのはワタシだけだったらしいので、急いでバスタオルを身体に巻きつけて口を出した。
転んだ状況を説明し、救急車を呼んだほうがいいと思うと伝えると、スタッフの人が電話をかけに行く。
おばあさんは裸にバスタオルを何枚も掛けて寝ている状態なので、救急車が来る前に服や持ち物を出しておかねばと思い、ロッカーの鍵はどこかと訊ねたが、
「今日は何日ですか?」
「今は何時ですか?」
と交互に繰り返してしゃべるだけ。
仕方ないので、そのとき周りにいた人たち(お客さんたち)が、浴場の入り口に引っ掛けてある私物=お風呂セットやタオルを入れた袋などをひとつひとつ手に持って、
「これ誰のですか~?」と浴場内を聞いて回る。
持ち主不明の私物がいくつもあり、それらは今現在ジムやプールで運動している人達のものだが、その中におばあさんの物もあるはずなので、スタッフの人がとりあえず全部見せて、
「この中にご自分の荷物はありますか?」
と聞いていたが、どうも要領を得ないよう。
結局分からなかったらしく、スポーツクラブの制服のトレーナーとジャージをおばあさんに着せていた。
そうこうしているうちに救急隊員の人がやってきて、おばあさんをベンチからストレッチャーに移動させ、素早く出て行った。
なにしろ女子更衣室だもんね。
救急隊員とはいえ男性なので、そこでアレコレやるわけにはいかなかったのであろう。
ワタシが髪の毛を乾かし終わりちょうど帰ろうとしていたところに、スタッフの人が
「転んだところを見ていた方、いらっしゃいませんか?」
と捜しに来たのだが、やはり目撃したのはワタシだけだったらしく、他に誰もいない。
スタッフの人と一緒に更衣室を出ると、入り口の横で救急隊員の人とストレッチャーに寝ているおばあさんがいた。
そこで転んだ状況をワタシが一人の救急隊員の人に説明している間、おばあさんは、自分の名前と生年月日を何回も何回も繰り返し言っていた。
痛いところはないかとか、気分は悪くないかとか、家族や連絡先を訊ねられても、答えるのはひたすら名前と生年月日だけ。
ワタシは説明を終えたらすぐに帰ってきたのだが、怖かった。
どうかおばあさんが大丈夫でありますように。
なんでもありませんように。
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ところでワタシの手首は、夜になったら腫れてきて、とても痛くなった。
いかん。仕事に差し支える。
シャレにならない感じになってきた。
水中でんぐり返しをしている暇があったら、病院に行くべきだったのかも。